アオイスタジオの第3スタジオが
 フルデジタル対応にシステムアップ

  新たなるデジタル時代の幕開けを告げる
   次世代ミキシング・コンソールの導入

第3スタジオ

 このたび、当社第3スタジオを改装いたしましたので、ご紹介させていただきます。

スタジオの仕様

 このスタジオは、映画の予告編のダビング作業や本編の準備作業に使用してきましたが、機材の老朽化が進み、さらにドルビーデジタルDTSといったデジタルサウンドトラックへの対応が必要となってきたために改装に着手しました。
 スピーカーシステムは、十年程前既にスクリーンの後ろにバッフルを作り、そこにLCR3本のスピーカーを設置してありますので、今回はここにIMAX用のTOPスピーカーとサブウーファーを追加するに留めました。 このバッフルは、床から防震ゴムで浮かせて作った鉄筋モルタルの床の上に100mm角の材木でバッフルの下地を作り、その上に30mm厚の板を張り付けた構造になっています。
そしてスピーカーの台になる部分に、バッフルのダンプも兼ねて80mm厚のモルタルを打ってあります。バッフルの表面は、一度スピーカーから出てスクリーンに当たって跳ね返って来た音を吸収するためにグラスウールによる充分な吸音処理を行い、同時に映写機からの光を反射しない様に表面を黒い色で仕上げてあります。
 サラウンドスピーカーも以前からスクリーンに向かって左右の壁面に各2本、後方の壁面に2本の計6本が取り付けられており、デジタルのステレオサラウンドに対応するために、これを左右3本ずつのグループに分けられるように配線を変更しました。
 スクリーンは音響透過特性が良い、英国Harkness Hall社の「Perlux II」サウンドスクリーンを使用しています。また、スピーカーのメンテナンスのために、スクリーンは枠ごと前方に引き起こす事ができます。
 また、これはミキサーが画面を見る時の仰角を小さくし、長時間にわたる作業による疲労を軽減しようという意図で、音声調整卓から後ろのエリアの床を20センチかさ上げしました。

ミキシングコンソールの選択

 改装するにあたっては、まずミキシングコンソールをデジタルにするか、アナログにするかという大きな選択がありました。
3年前に改装した映画のダビング専用の4スタジオには、SSL社の8000シリーズをベースにした映画用のカスタムアナログコンソールを導入しました。
本来ならば、同型のコンソールを導入する事が互換性の面からみても妥当なのですが、今回の第3スタジオは容積が小さく、必要入力数を満たす規模の物は物理的に設置が不可能でした。
 そこで、横幅が2メートル以下、入力数が40以上、5.1チャンネルサラウンドに対応するコンソールを探すことになりました。
また、映画のダビングに使用するという事で、このスタジオでは通常二人のミキサーがそれぞれ台詞/音楽と効果音を担当して作業を行いますので、その二人が同時にイコライザー/ダイナミクス/パンポット/チャンネルアサイン等にアクセスできて、その設定状況を同時に確認できるという条件を満たす必要がありました。また、室内を暗くして作業を行いますので、コンソールの盤面が見やすく出来ている必要もありました。
また、同時に映画以外の用途では、ワンマンコントロールで集中コントロールができなければならないという要望もありました。
 果たして、この条件を満たすコンソールはなかなか見つからず、特にアナログでは実現が難しそうであるということで選択肢から外すことにしました。
そこでデジタルのコンソールの中から選択する事になりましたが、デジタルの場合まず問題になりそうなのが音質です。
 3年前にアナログのミキシングコンソールを導入した時にも、デジタルコンソールも検討したのですが、その時点での音質はアナログの方が勝っていると判断した経緯がありました。今回もまずこの点を分析した結果、前回の時点では分解能は16bitであり、DSPの能力も現在の物に比べて低かったのに比べて、現在では分解能が24bitの物もあり、DSPの性能も大幅に向上して内部演算が高精度になっているので、3年前より随分音質が良くなっているとの感触を得ていました。
 いくつかの候補が挙がったのですが、マンマシンインターフェースが当社に必要な条件を満たしていないとか、分解能が16bitしかない等となかなか決まりませんでした。
そこに、昨年秋のAESで、Euphonix社が初めてのデジタルミキシングコンソール『System 5』を発表しました。
 このコンソールは、レベル/ダイナミクス/イコライザー/パンポットやチャンネルアサインなどの情報がチャンネル毎に表示でき、チャンネル毎にアサイナブルな8個の自照式のインジケーターを持った大きなツマミを備え、入力/ダイナミクス/イコライザー/AUX送り/パンポットの機能にワンタッチで切り換えることができます。また、センターセクションにはこれらのツマミやスイッチを全ての機能分の数だけ並べたパネルが用意されており、ここにチャンネルを呼び出して来ると各機能を同時に調整する事ができます。ミックスバスも5.17.1サラウンドに対応しています。
 スペックも分解能24bit、内部演算40ビット、サンプリング周波数は96kHzまで可能という最先端の性能を備えています。
さらに、物理的なサイズが24フェーダー/48チャンネルで幅がちょうど2メートルに収まっているという、正に当社の条件に合致したために導入を決めました。
 このコンソールは、それぞれ8本のフェーダーを持ったブロックを並べた構成になっています。このブロックは電源とコンピューターを内蔵し、そのコンピューターのLCDディスプレーを使って、レベルやEQカーブ、チャンネルアサイン等の情報を表示する様になっています。それぞれのブロックには、AC電源のインレットとイーサネット用のRJ-45コネクターが付いているだけです。そして、それぞれのブロックはEuCon(ユーフォニクス・コミュニケーション・ネットワーク)と呼ばれるネットワークを形成し、100BASE-TXケーブルでハブを介してコンピューターに接続されています。音声の入出力は、コアと呼ばれるデジタルフレームに付いているMADIコネクターで行います。MADIを持たないデジタル機器、およびアナログ機器との接続は、MADIAES/EBUの変換器やMADIとアナログの変換器を使用します。
 コア内部にはパッチネットと呼ばれるルーター機能があり、外部にパッチ盤を必要としません。このパッチネットは、音声卓の入出力のアサインだけではなく、機器間でのダイレクトコピーも可能にしています。また、eMixと呼ばれるコンピューターアシスト機能を持っており、オートメーションの他、先のパッチネットや種々のコンソールのセットアップが出来、このセットアップ情報はCD-RWに保存されます。
モニター回路 このコンソールのフレームは従来の物と大きく役割が異なっており、単にこれらのブロックを乗せる台になっており、コンソール内での各ブロック同士の信号の受け渡しは一切ありません。また、それぞれのブロックを別々の場所に設置することも可能です。コアを増設することにより、容易にコンソールの規模を拡張する事ができます。
 このコンソールのモニター部は、他のデジタルミキシングコンソールと大きく異なっています。通常モニターボリュームはフルの状態で使用することはなく、常にある程度10dB20dB程度絞った状態で使用します。今までのデジタルコンソールでは、この部分をデジタル領域で演算処理していたために、モニターボリュームを絞る事によってフルにビットを使うことができなくなり、モニターボリュームを絞るほど分解能が低下して音質に悪影響を与えていました。しかし、このコンソールではモニターボリュームの前段でD/A変換し、その後で同社のアナログコンソールで使用されているDCA(デジタル・コントロールド・アッテネーター)を使ってアナログ領域でボリュームを絞っているので、この様な音質低下は発生しません。
また、この部分がアナログであるために、ドルビーやDTSのマトリックスエンコーダー/デコーダーを容易にシステムに組み込むことができるという大きなメリットもあります。
 モニター出力は、コントロールルームモニターとして3系統(7.15.1/ステレオ)の出力と、その他にMon A7.1)とMon BD(ステレオ)の5系統が用意されています。

R-1ディスクレコーダーの採用

 デジタル化するに当たっては、同時にノンリニア化も進めるというコンセプトがありました。従来からプロツールズを使用していたのですが、アナログの16chテープレコーダーとの併用という形で運用していました。今回はこのアナログテープレコーダーをノンリニア化する事にして機種を選定しました。
 プロツールズのチャンネル数を増やせば、それだけで充分ではないかという意見もありましたが、とにかく録音ボタンを押せば録音し、再生ボタンを押せば再生するという機械はあっても良いのではないかということになり、それほど複雑な編集機能は持たないハードディスク録音機を導入する事にして機種選定を行った結果、サンプリング周波数や分解能、拡張性を考慮した結果、ミキシングコンソールと同じEuphonix社のR-1ディスクレコーダーを導入しました。
これは24トラック仕様で、MADIによって直接ミキシングコンソールに接続されています。

ビデオプロジェクターの採用

 このスタジオは、従来は16mm35mmのフィルムプロジェクターを使用していましたが、形式が古くて途中で止めたり戻したりというロックンロールの機能を持っていませんでした。新たにロックンロールの機能を持ったプロジェクターの購入も検討したのですが、高価でもあり、早送りも6倍速が限界ということで、せっかくノンリニアの環境にしたのにプロジェクターの速度に足を引っ張られて作業スピードが落ちてしまうという事になってしまいますので、今回はビデオプロジェクターを新規導入する事にしました。
プロジェクターの選択についても難しい条件がありまして、まずフロントスピーカーがスクリーンの後ろに設置してあるために、サウンドスクリーンという小さな孔が多数開いている物を使用しているために反射率が低く、明るいプロジェクターが必要になります。
 また、設置場所についても、プロジェクターが発生する騒音はかなり大きくて、当初はスタジオ内にプロジェクターを収納する箱を設置して強制換気を行おうとしましたが、この箱の制作費とメンテナンスの事を考えると現実的ではなく、結局フィルムプロジェクターが設置してある映写室に置くのが現実的であるという結論に至りました。
 しかし、こうする事によって映写窓の二重のガラスを透過しなければならなくなり、ここでの光量のロスを補うために、ますます明るいプロジェクターが必要になりました。
光学出力が10,000ルーメンクラスのDLPプロジェクターを設置すればこれらの条件は簡単にクリヤできるでしょうが、価格が一千万円以上では予算的にどうにもなりません。いろいろとテストをした結果、購入可能な2,000ルーメンクラスでは光量が不足であるという結論となり、機種選定が暗礁に乗り上げた時に、タイミング良く三洋電機から『LP-SX3000』という、2,000ルーメンクラスの価格で3,300ルーメンの光量を持つ液晶プロジェクターが発売になりました。
 これを借用して実際にテストした結果、充分使用に耐える明るさであり、価格もなんとか許容できる範囲であったために導入を決めました。
 このプロジェクターは、映写距離と画面サイズによってレンズを選択できますし、リモートコントロールによるレンズの上下シフト機能を持っているために、台形歪みの発生を最小限に抑えることができますし、スクリーン上の画の上下位置を簡単に修正できるので大変便利です。また、この機種は交換用のランプが安価なのも魅力です。

同期の問題

 デジタルドメインで作業を進めていく時には、アナログと違ってサンプリングレートの管理が重要になります。MAの場合は、最後に音を戻すVTR48kHzで作業を行えば何の問題も生じません。
 しかし、フィルム作業の場合には考慮すべきポイントが幾つかあります。
まず、ラッシュフィルムをテレシネでビデオに変換します。この時フィルムはビデオのフレーム周波数の0.8倍にあたる23.976駒で走行し、24駒より0.1%遅く走っています。
そして、ダビング作業はこのVTRを使ってこのままの0.1%遅いスピードで行います。ここまでは従来と同じなのですが、今まではマザーをビデオ同期の23.976駒で走行する35mmのシネテープに録音していました。しかし光学録音機は電源同期で走行しており、このままではマザーと同期しません。そこで、マザーがアナログであるためにスピードを変える事が容易でしたので、光学現像をする時には光学録音機とマザーのシネテープを電源同期で運用して同期を取っていました。
 しかし、今回はマザーをデジタルで収録しますので、電源同期で光学録音することができません。そこで、当社では光学録音機の駆動モーターをサーボモーターに交換し、48kHzのワードシンクにロックして走行できるようにする改造を施しました。実際の運用ではこれに0.1%のプルダウンを掛けて48kHzのワードシンクを受けた時に23.976駒で走行させて、デジタルの再生機から直接光学録音を行う事を可能にしました。これでテレシネした時のフィルムスピードと同じになり、画と音が同期することになります。
 また、ドルビーデジタルのマスタリングを行う時に使用するDS10はタイムコードでは同期せず、バイフェーズ信号を必要とします。このスタジオではバイフェーズ信号を必要とする機器が無いので、バイフェーズ信号自体が存在しません。そこで、今回は英国CB Electronics社 のBS-1という、タイムコードからバイフェーズ信号への変換機を使用してこの問題を解決しました。
 わが国でも、デジタルサウンドトラックを採用した作品は、トレーラーを含めるとかなりの本数が製作されるようになってきました。また、最近のエレクトリックシネマの台頭をみますと、近い将来映画の音は全てデジタルになってしまいそうです。このスタジオが、この流れの中で何かを残せたらと願っています。


プロサウンド誌 2000年6月号掲載の記事を元にして再構成しました。
表記中の各製品名は個々の所有者の登録商標または商標です。